鰻の男 あらすじ
鰻の男 感想(ちょっとネタバレもあり)
ポスターはノワールアクションっぽいけど、社会派ラブストーリーかな。
動画配信サイトのサムネで見ると、キム・ソンオが主演なのかと思ったけどパク・キウンだった。
パク・キウンは日本人にもウケそうなハーフっぽいジャニーズ系のイケメン。
シャープ過ぎて冷たい感じにも見えるのか、実は悪い奴という役も多い。私の見た中では、チュノのあの方とか、神弓の皇太子とか(悲惨すぎる殺され方)。
この、悪い奴なのかいい人なのかよくわからないミステリアスさが、この映画にも活かされている。
冒頭で、女性を助けることによって、実はいい人だという描写はされているのだけれど、なにせ中国人、韓国語が全くわからない設定なので全く喋らない。
喋らないゆえに心の中で何を考えているかわからない。
ちなみに、パク・キウンは大学が中国語専攻ということで、キムギドクも安心してキャスティングしたそうだが、実は全く中国語はできず、1週間で対応したのだそうだ。
どの程度の中国語レベルかわからないが、知らない自分には不自然さはなく聞こえた。
中国語が分かる人が聞けばアラがわかってしまうんだろうな、韓国映画の日本語がおかしくて集中できないように…。
キム・ギドク系の作品では、喋らない男と言うのも良く出てくる。悪い男もそうだし、プンサンケに至っては一言も台詞を発しない。
まるで無声映画のように、主人公の行動と表情などで心情を察するしかない。昨今の、とくに日本映画にありがちな全てを登場人物の台詞で説明してしまう映画に比べると、自分にとってはかなり面白さが増す演出である。
キムギドク制作の作品だから、嫌な気分になるんだろうな~と思いつつ見進めていったが
割と大丈夫なやつだった。
いろいろとあっさり進行するシーンも多くて、テンポよいがちょっと笑えてくるような部分もある。
この映画の原題は『メイド・イン・チャイナ』中国製品、特に食品問題について切り込んでいる。
これは日本人の自分にとっても非常に身近で明確な社会問題だ。
ともすると、中国の産業が悪であり、それを暴いて排除することが正義であるという風潮。それが命に直接かかわる食であるならなおさらだ。
しかし、この映画の主人公は中国人鰻業者のチェン。
彼は誠実な男であり、不正もせず一生懸命鰻を愛情をもって育ててきた。何の落ち度もなかったのだ。
自分も中国製品を扱う仕事をしていて、事情を知っている部分がある。
中国人の労働者は、田舎から出稼ぎでやってくる。
月額2~3万円ほどの定収入でも、家族のために懸命に働いている。
その作っているものが、悪いものかどうかも全く知らずに、ただひたすら真面目に働く。
犯罪と全く気づかずにやっていることがほとんどだろう。
手先の不器用な人も、ろくに指導もされずにすぐに働かされ結果不良品を作ることもある。
問題があれば人員は切られるだけ。
買う人間は全くそれを知らず、品質は求めても高いものは売れない。
WEB広告の仕事もしている自分も胸がいたいものがある。
依頼主の商品を、その品物以上に良く見せてできるだけ高く売るのが仕事だ。
時にはこれはダメだろうと思っても、欠点には目をつぶって売る。
そうしないと自分はお金が稼げない…。
韓国人は本当に中国製品を下に見ているんだな。
歴史上は中国の属国だったのが、根底にあるのかもしれない。
ほぼ、日本が中国を見る目線と似ているのかもしれないが、陸続きな部分よりシビアである(間に北朝鮮があるけれども)
日本も、アメリカは上、自分たちはアジアの頂点にあり、他のアジア諸国は明らかに下に見ている。
最近は訪日ベトナム人労働者の事件などもあったが(コロナで貧困になり窃盗など)
韓国にとっては、日本はまだ上に位置している。そろそろ逆転しそうでもあるが
この映画で、ヤクザとつるんで金持ちになった女が乗っている高級車がレクサスであるのがそれを象徴している。
この映画にはなかったが、偉い人たちが悪だくみする高級料亭も、日本料理店であることも多いし、
権威付けのために日本の大学を出たとか、日本で修業したなどの設定が出てくることもある。
あれ、最近は少なくなってきたのかな。
この映画は2014年の映画である。
チンピラ仲間が言ったセリフが印象的だった
隣の国なのになぜ言葉が通じない
日本だってそう、きっと昔からいがみ合っていたんだな
腐った資本主義の奴隷
あぶく銭に群がる亡者
空威張りの能無し人間
言葉が通じれば、多少の誤解は解けるのかもしれない。現に自分は多少話せるので、韓国人の友達ができ、親切にもしてもらえた。
かといって、日本語が通じる同士でもわかり合えないこともあるからなぁ。。。
このまま格差が開けば資本主義は崩壊するかもしれない。
韓国の川の水の方が中国の水銀の川より汚いのか、鰻は死んでしまう。
中国人は、韓国では生きられないのか。生きても、地位は低いまま。
ラブラブになっていた駆け落ち男女は、このまま幸せなのかもしれない。
いろいろなことを考えさせられる。
女がすぐにチェンに惚れてしまうところを理解できない人も多いかもしれないが、自分はすんなり受け入れられた。
まずチェンがイケメンなのと、一生懸命な性格、ほっておけないんだろう。
女は寂しかったのだ。
ラスト、チェンを見送ってどこかへ電話したのが気になった、どこだろう。ヤクザの社長かな。
一時の寂しさを埋めた女はUターンしてまた元の生活に戻るのかもしれない。
もしくは、不法に流通していた鰻を通報するのか?
どちらにしろ自分はこれはハッピーエンドととらえた。
チェンは中国に帰ってまた誠実に働くだろう。
鰻やの店員となった女は、貰ったお金で韓国に住み着くかもしれない、言葉が喋れるし。
チェンと一緒に事業ができたらいいなとも思うけれど。
キムギドク制作作品のなかでは、さわやかな終わり方で、胸糞も(そんなに)悪くならない。
中国製品、中国人、それだけでなく、自分たちの豊かな暮らしを支えてくれる安い労働者の人たちの目線になって深く考えさせられる良作だった。
キムギドク監督が2014年に来日した際のインタビューで「韓国では社会派の映画は受けない、エンタメ・娯楽じゃないとヒットしない。賞を受けたら公開してもらえる」と言っていたそうだ。
韓国映画は社会派が受ける基盤がありうらやましいと思っていたが、もしかしてそうなったのはごくごく最近のことなのかもしれない。
社会派であってもエンタメ性がないとだめという感は否めないけれど。
いつ自分たちがそっち側の層にいくかもわからない。もうすぐそこかも。
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鰻の男 映画情報
公開年:2014年
上映時間:
原題:메이드 인 차이나(メイド・イン・チャイナ)
監督:キム・ドンフ
脚本:キム・ギドク
鰻の男 キャスト
パク・キウン:チェン、中国鰻業者
ハン・チェア:チャン・ミ、食品医薬品安全庁
イム・ファヨン:キル・リムソン、密航者
ユ・ジェミョン:チャン社長
キ・グクソ:会長
ソナク:チンピラ
チョン・テソン:チンピラ
チャン・インソプ:チンピラ
パク・ノシク:偽造パスポートブローカー